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相続登記はしなければいけないか

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1、法的な義務はあるか

 相続登記は相続税の納付や固定資産税の納税者の届出と違い、手続をしなければならないという法律上の義務がありません。これは、不動産の登記というものが、その不動産について権利を持っている人を守るための制度だからです。納税はしてもらわなければ国が困りますが、登記がされていないときに困るのは登記をしていない方なので、法律で強制する必要がないからなのです。

 もちろん、相続登記をしていない方が「自分の権利なんてどうなってもいい」と思っているわけではないと思います。しかし、ご遺族が住み続けたり空き家として管理している間は登記をしていない不都合を感じないことが多く、手続をしないまま10年、20年、・・・と時間だけが過ぎていくことがよくあります。

 このページでは、相続登記をしないままにしたときのリスクをご紹介します。

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2、相続登記をしなければならないときはいつやってくるか

 では、相続登記をしなければならないときはいつやってくるのでしょうか。

不動産を売るとき

 いつか必ずやってくるのが、不動産を手放すときです。不動産を売るときは買主さんに不動産の名義を変えることになりますが、故人から買主さんに直接名義を変えることはできません。まずは相続人の方の名義に変更して、その方が売買契約を締結し、買主さんに名義を移すことになります。

 もちろん代々受け継いでいる家を手放すことなんて考えられない、という方もいらっしゃるでしょう。しかし永遠かと言われるときっとそうではないでしょうし、代々守ってきた家ほど、代がわりごとに相続登記をきちんとしていないと、いざ必要になったときに問題が大きくなっている可能性があります。その理由は後で説明します。

お金を借りるとき

 長く住んでいると家をリフォームしたり、建て替えたりすることがあります。このとき銀行でお金を借りる際に、その不動産を担保に入れてもらわなければ困ると言われることがよくあります。

 担保に入れるためには抵当権設定登記というものをすることになりますが、故人の名義の状態では手続ができないので、相続登記をする必要が出てきます。

自分の権利を主張するとき

 不動産の登記は、権利を守るためのものだと書きましたが、まさにその必要があるときです。

 不動産をめぐるトラブルには様々なものがありますが、例えば誰かが土地の一部を勝手に使い始めたとしましょう。「そこは私の土地だ、出て行け」と主張するには相続登記をしていないと面倒です。

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3、相続登記をしないことによるリスク

 ここまでで相続登記は、いつかはしないといけないのだろうということはご理解いただけたと思います。しかし、今すぐしなくても必要になったときにすればいいのではと考えてしまいがちです。

 結論から言うと、相続登記を先延ばしにして損をすることはあっても、得をすることはほとんどありません。一口に「相続登記」「名義変更」とは言っても、時間が経つにつれて手続はどんどん複雑になっていくからです。

数次相続が起きて関係者の数が増える

 故人の相続人が遺産分割協議をしないうちに亡くなると、その相続人についてさらに相続が発生し、相続人の相続人が手続の関係者に含まれてくることになります。これを数次相続といいます。

 何十年の月日の中で相続人がタテにヨコに広がってしまい、交流の薄い方や全くない方と「今から遺産分割協議をしましょう」となるとかなり大変です。

 故人が亡くなってすぐであれば、相続人同士で話をしやすいでしょうし、「この不動産は○○が継ぐべき」という共通認識が既にあることも多いでしょう。

 しかし何十年後かの相続人同士の関係を考えると、「○○さんの名義にするのはいいけれど私の相続分はお金できっちりいただきます」とか「手続に協力してもいいけれど判付料云十万円申し受けます」とかそれぞれが権利を強く主張することもあるでしょう。あるいは「あなたと関わりたくない」と言って一切の交渉を拒否されるかもしれません。

 一方で遺産分割協議こそされなかったものの、その不動産に代々住んでいたり管理していたり、固定資産税を毎年納めてきた方にとっては他の法定相続人の方の主張を「はい、わかりました」と呑むわけにもいかないでしょう。

 また、個別に交渉をまとめていっても条件がそれぞれ異なると、交渉が終わったと思っていた方が「他の人に比べて私の条件が悪い」と言い出して収拾がつかなくなるかもしれません。

 その結果、何ヶ月~何年という時間と何十万円から百何十万円というお金をかけて、家庭裁判所で調停をする他なくなるかもしれません。そもそもお金に困って不動産を売ろうと思ったような場合ですと、売る前提の手続にそんな費用はかけられないので、諦めるしかなくなるかもしれません。

法定相続人の中に高齢の方がいて、遺産分割協議が困難になる

 ある意味当たり前のことではありますが、遺産分割協議をするのはそれぞれの法定相続人ご本人です。そして、遺産分割協議を有効に成立させるためには協議をする方がその協議内容の意味を理解できるだけの判断能力をもっていなければなりません。

 相続する権利は多くの場合、高齢者から順に回ってきますので、故人が亡くなった何十年後かには法定相続人の方もかなりの高齢者が多くなっていて当然です。その方がしっかりとした判断能力をお持ちであれば遺産分割協議が可能ですが、認知症等で判断能力が衰えていると有効に協議ができず、成年後見制度を利用しなければならなくなります。

 その場合、成年後見人の選任手続を家庭裁判所で行う時間・費用がかかりますし、遺産分割協議が終わった後も成年後見人が被後見人の財産を管理し続けることになります。遺産分割協議には成年後見人が代わりに参加することになりますが、成年後見人は判断能力の衰えた方(被後見人)の財産を守る法律上の義務がありますので、被後見人に不利な協議内容には同意できないことになります。

行方不明者がいる

 戸籍等では確かに法定相続人になる方でも、誰も居所を知らない、ということもあります。

 調査の結果行方を突き止められればいいのですが、そうでなければ不在者財産管理人という行方不明者の財産を管理する人を家庭裁判所で選任する等しなければなりません。そのために時間・費用がかかり、また不在者に不利な内容での協議が成立しなくなるのは成年後見人のときと同じです。

 さらに、不在者財産管理人の手続には、管理人の報酬等に充てるため、高額な預納金が必要になります。

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4、空き家の問題

 今、全国的に空き家の増加が問題となっていますが、原因の一つは住んでいた人が亡くなった後、その家を放置しているケースが多くあるためです。

 これまでは故人名義の空き家があることにあまり不利益は感じませんでしたが、空き家が社会問題と化した今、倒壊等の危険のある「特定空き家」に指定されると、行政の指導・勧告・命令により、取り壊し等の必要な措置を強制されることになります。また、命令に従わない場合は行政が代わりに空き家を取り壊す等した上で、それに必要となった費用を法定相続人等に請求することになります。

 また、特定空き家に指定されるとこれまで固定資産税が住宅用地の特例によりかなり低額に抑えられていた土地にその特例が適用されなくなり、最大で一気に6倍の固定資産税が課税されることもあり得ます。

 このような意味でも、不動産の所有者が亡くなられたらできるだけ早いうちに相続登記をした上で、これからその不動産をどうしていくのかしっかりと考えなければなりません。

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5、架空の事例

 それでは架空の事例で考えてみましょう。かなり複雑ですが、この事例のようなことになるときは、知らず知らずのうちにそうなってしまうものです。相続のことがよく分からない方は、読み進める前に相続の基礎知識のページをご覧ください。

平成10年1月1日 Aさん逝去

最初は、旦那さんと3人のお子さんが相続人でした

 Aさん名義の住宅を二世帯住宅に改装して、Aさん、Bさん、長男であるCさんとその家族は暮らしていましたが、ある日Aさんが亡くなってしまいました。

 葬儀や法要に追われた後、家の名義をどうしようかとCさんはBさんに相談します。Bさんは「世話をかけているし私ももう年だからCの名義にしたらいい」と言ってくれました。長女であるEさんもそれでいいと言ってくれましたが、次男であるDさんは小さな会社を経営しており、「家を兄貴が継ぐのはいいが、俺も経営が苦しいからお金を少し融通してほしい」と言います。

 Dさんは昔から何かとトラブルを起こしてCさんに迷惑をかけていましたし、葬儀のときにもろくに手伝わないDさんの態度に腹を据えかねていたCさんは、とてもDさんにお金を融通しようという気になりませんでした。

 手続を急ぐ必要もないので、Cさんはとりあえずこの話は保留することにします。

 なお、この時点でのAさんの相続人は夫のBさん、長男のCさん、次男のDさん、長女のEさんです。

平成15年2月2日 Bさん逝去(Aさんの没後5年)

次に旦那さんが亡くなると、旦那さんと前妻の間の子に相続権が移ります

 しばらくすると、Bさんも老衰で亡くなってしまいます。生前に交友関係の広かったBさんの葬儀にはかなりお金がかかったので、CさんはBさん名義の預金の相続手続を早急に進めなければなりませんでした。

 Bさんには前妻との間にCさんより歳が十ほど上のFさんというお子さんがいるということは生前に聞いていたので、Fさんにも協力してもらわなければなりません。

 いきなり訪ねてきたCさんに、Fさんは最初「私には関係ない」の一点張りでしたが、根気強く説得して、何とか手続に協力してもらうことができました。

 このとき住宅のことがCさんの頭をよぎりますが、住宅の名義変更にFさんの協力が必要かよくわかりませんでしたし、ややここしい話をしてFさんの気分を害しては元も子もないと思ったので、取り急ぎ預金の手続だけを済ませます。Fさんには少しばかりお礼をして、葬儀費用にかかった分を除いてCさん、Dさん、Eさんで預金は平等に分けました。

 なお、Cさんの懸念どおり、この時点でAさんの相続人の地位がFさんにも受け継がれています(Aさんの相続人であるBさんの相続人として、数次相続が起きた、ということです)。

平成25年3月3日 Eさん逝去(Aさんの没後15年)

数次相続の厄介なところは、配偶者をきっかけに「家」をまたいで権利が移ることです

 不運にも交通事故でEさんが亡くなってしまいます。EさんはGさんと結婚しており、二人の間に子どもはいませんでした。

 Eさんの相続人は配偶者であるGさんの他、きょうだいのCさん、Dさん、Fさんになります。

 Eさんの預金の相続手続をどうしたものかとGさんがCさんに相談にやってきました。CさんはDさんとFさんに話をしてみることを請け負います。

 Eさんの預金の額はそんなに大きくありませんでしたし、DさんもEさんを可愛がっていたので、Dさんと話をつけるのは難しくありませんでした。

 その後、CさんはFさんを10年ぶりに訪ねましたが、年老いて一人暮らしをしているらしいFさんはCさんの来訪を喜んで迎えてくれました。「仮にもきょうだいのことなんだから」とGさんから預かっていたお礼も受け取ってもらえませんでした。このときにはCさんは住宅の名義のことはすっかり忘れていました。

 なお、この時点で、Aさんの相続人としての地位はEさんの相続人であるGさんにも移っています。

平成28年1月 Cさん住宅の建替えを検討(Aさんの没後18年)

 子どもも独り立ちして奥さんと二人で暮らしていたCさんは、二人で暮らすには広すぎる上にかなり老朽化してきたので、元気なうちに住宅を建て替えようかと思いはじめました。

 まだAさんの名義のままになっていることを思い出し、まずは相続登記をしようといろいろと相続に関する本を買って相続関係を調べてみます。その結果、Dさん、Fさん、Gさんの協力が必要になることが分かりました。

 うすうすそうじゃないかとは思っていましたが、Cさんはみんな協力してくれるだろうと思いました。まずはDさんに連絡しようと思っていた矢先、Dさんの奥さんであるIさんから連絡が入ります。Dさんが肺がんで入院したというのです。

平成28年○月×日 Dさん逝去

原則として相続はするかしないかの二択のため、相続権と借金が一緒にやってくると大変です

 Dさんの肺がんはかなり悪い状態で、数ヶ月の入院の後亡くなってしまいました。こんな状態でしたし、Aさん名義の住宅の相続登記の話はできませんでした。

 少し時間をおいてDさんの相続人である奥さんのIさんと、息子であるJさんに協力してもらおうとIさんに話をしに行きます。するとIさんは「夫に借金がたくさんあったので私と息子は相続を放棄した」と言い、家庭裁判所で手続をした書類を渡してきたのです。

 これはどうしたらいいのか分からないので、司法書士に相談に行くことにしました。すると、驚いたことにDさんの相続人はCさんとFさんになっていると言うのです。相続放棄をすると相続人でなくなるので、子どももおらず、親もいないために兄弟姉妹が相続人となる、と。

 そして、Dさんの借金もCさんとFさんに相続されることになるので、債権者から請求されるかもしれないと言います。

 Cさんは自分たちもDさんの相続を放棄すればいいと思いましたが、そうするとDさんの相続人が誰もいなくなるので、Aさんの相続人としてDさんがもっていた権利についても相続人がいなくなってしまうようです。

 そうなると相続財産管理人という人を家庭裁判所で選任してもらい、その人がDさんの借金やAさんの相続分等のDさんの財産を処分していくことになるということです。

 住宅のことがあるCさんはともかく、FさんはDさんの相続を放棄した方がよいことは間違いないと思い、Fさんを訪ねました。

 すると、3年前には元気だったFさんは認知症に罹り、老人ホームで暮らしていました。Cさんに会うと嬉しそうにしてくれましたが、どうやらFさんの息子と勘違いしているようでした。

おわりに

 さて、Aさんの相続手続はどうなるのか気になるところではありますが、ここから先はいろんなバリエーションがあるので、事例はここまでとさせていただきます。

 事例中では扱いませんでしたが、Aさんの相続人としての地位を受け継いでいるGさんが亡くなると、(Gさんのご両親も亡くなっていると)兄弟のHさんが相続人としての地位を受け継ぐことになり、登場人物が増えていくことになります。

 早めに手続していれば・・・と思っても時既に遅く、これからCさんは様々な問題に立ち向かっていかざるを得ないということは想像に難くありません。

 ホームページでの事例ですので登場人物はできるだけ少なくしましたが、子がたくさんいたり、養子縁組をしていたり、結婚と離婚を繰り返したり、という事情が加わることも多いものです。

 相続登記はお早めに、ということが少しでも伝われば幸いです。

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きょうだいの旦那さんと話をするのと、きょうだいの旦那さんのきょうだいと話をするのでは難易度が違います